株式の評価:ストックオプション
2014年08月10日 12:17
会社に必要な人材を採用したり、社員の士気を高める目的でスタートアップの会社でもストックオプションを付与することがあります。
ちなみに私は上場企業2社に15年間勤務しておりましたが、ストックオプションを行使した直後に上場廃止になったこともありますし、貯金代わりの役員累積投資の株価が20倍になったこともあります。株は夢をみることもできますが痛い目をみることもありますのでしっかり勉強しておきましょう!
ストックオプションとは?
ストックオプションとは会社が取締役や従業員に対して、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)で会社の株式を取得することのできる権利を付与し、取締役や従業員は将来株価が上昇した時点で権利行使を行い会社の株式を取得し売却することにより株価上昇分の報酬が得られるという一種の報酬制度です。
例えば行使価格10万円のストックオプションを付与され、数年後に上場して株価300万円になった場合、1株10万円で会社の株を取得し300万円で売却することができますので差額290万円の利益となります。(もちろん税金がかかりますがそれについては後述します。)
役員・社員以外にも付与できる?
事業を支えているのは役員・社員だけではありませんので、一緒にサービスを作ってくれている外注先の人やサポートしてくれる業務委託の人にも同様にストックオプションを付与することができます。基本的な手続は社員に付与する場合と同じですが、外注先・業務委託先への付与に関しては税制適格になりませんので権利行使時(売却前)に一度課税されることになります。
税制適格・税制非適格とは?
税制適格の条件を満たしたストックオプションは税務上課税が優遇されます。適格と非適格の課税ポイントは下記の通りです。
ストックオプションには「権利付与」「権利行使(株式取得)」「売却」と3つの課税ポイントがあります。
・権利付与時
ストックオプションを付与する際には「長くこの会社でがんばって欲しい」という発行する側の意図がありますので「付与から◯年間は権利行使できない」といった条件を付けるのが一般的です。したがって付与後すぐに経済的利益が実現することはないですし、また付与時に個人が時価相当額を算定するのは困難なため税制適格・不適格共に付与時に課税されることはありません。
・権利行使(株式取得)時
権利行使可能な時期に入り、行使価格より高い株価水準になったらいよいよ権利行使です。権利を行使するには証券会社に口座を開設し会社を通じて「権利」を「株式」に変える手続をします。この手続には数日を要しますのでその間に株価が下落して行使価格を下回るなんてこともなきにしもあらずです。(株価が行使価格を下回るどころかこの手続期間中に売買停止になり払込金額の価値がゼロになるという経験をした人がここにいます。)
さて、この権利行使時の課税関係が税制適格と税制不適格では異なってきます。
権利行使時は株式を取得し売却する前ですので利益は実現していませんし現金も入って来ていません。それどころかむしろ行使するためにお金を払った状態です。そこで課税されてしまうのが「税制非適格」のストックオプションです。
役員・従業員以外の外注・業務委託の保有するストックオプションは税制非適格ですので、権利行使のタイミングで行使時の時価と行使価格との差額について課税されます。売却時には譲渡所得が課せられるのに対し、行使時は付与者との関係により「給与所得・事業所得・雑所得・一時所得」が課せられます。給与所得等は総合課税ですので所得に応じて5%〜40%の税額となります。
・売却時
税制適格のストックオプションは株式売却時に売却時価と行使価格との差額に対し譲渡所得20%(所得税15%・住民税5%)が課されます。さらに特定口座で源泉徴収を選択している場合には確定申告が不要となります。ちなみに役員や財務・機密情報を扱う部署の社員などで公開される前の会社の重要な情報を知り得た(インサイダー情報を持っている)場合株式を売却することはできませんので注意しましょう。
また、税制非適格のストックオプションは既に行使時時価までは課税されていますので売却時価と行使時時価との差額に対し譲渡所得20%が課されます。
税制適格の要件は?
税制適格の要件は下記の通りです。
・付与対象が取締役又は使用人であること
*但し発行済株式総数の3分の1(上場会社の場合は10分の1)以上を有するオーナー株主又はその親族である役員(社長等)は対象外
・権利行使期間を付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までとしていること
・年間の権利行使価額の合計が1,200万円を超えないこと
・1株当たりの権利行使価額は、権利付与契約締結時の時価以上であること
・新株予約権が譲渡禁止であること
・権利行使による株式の移転が会社法238条3項に違反しないで行われること
・権利行使によって取得する株式につき、あらかじめ会社が定めた金融機関等に保管委託又は管理等信託がされること
・新株予約権者の氏名等所定事項を記載した調書を所轄税務署に提出すること
権利付与契約締結時の時価とは?
税制適格の要件に「行使価格が権利付与契約締結時の時価以上であること」とありますが、未公開会社の株式については「売買実例」のあるものは最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価格が契約締結時の時価になります。
ファイナンスを受けている場合は直近のファイナンス価格を超える行使価格を設定しなければなりません。ただし普通株式の他に種類株式を発行している未公開会社が新たに普通株式を対象とするストックオプションを付与する場合、種類株式の発行はこの「売買実例」には該当しません。
また、ストックオプションの付与には株主総会の決議が必要となりますので、有利発行とはいえ株主の合意を得られる範囲の価額設定が必要です。
最後に
税制非適格の場合の権利行使時の所得区分についてまとめたいと思います。
・発行法人と付与対象者との間の雇用契約等に基因して付与(自社の取締役、使用人や子会社 の取締役に付与 )・・・給与所得 *
* 主として職務の遂行に関連しない利益が供されている場合は雑所得
退職に起因して権利行 使が可能となっていると認められる場合には退職所得
・付与対象者の営む業務に関連 して当該権利が付与 (外注先や業務委託、顧問弁護士・税理士等に付与)・・・事業所得 or 雑所得
・上記以外(付与対象者の相続人が権利行)・・・原則として雑所得
ちなみにストックオプションの登記には登録免許税 90,000円がかかりますし、株主総会の招集・決議等にも労力を要しますので、計画的に行いましょう!