2014年08月09日 11:27
目的によって異なる株価算定方法
一言で「株価」と言っても、株式の異動・ベンチャーキャピタルからの資金調達・ストックオプションの発行などその目的によって株価算定の方法が異なります。未公開株式の評価方法には、純資産方式・ディスカウントキャッシュフロー方式・収益還元方式・配当還元方式・比準方式・税務上の評価方式・折衷評価方式などがあります。
既存株式の売買でも新株やストックオプションの発行でも、これらの評価方法を用いてお互いが納得した価格で取引されるわけですからそれが「適正な時価」なのですがそれが「税務上の適正な時価」と異なるとちょっとやっかいなことになります。
今回は「目的:発行済株式の一部譲渡」「評価:税務上の評価方式」「業種:サービス業」「規模:小会社」に絞って説明していきます。
税務上の評価方式
まず、税務上の評価方法は大会社(従業員1,000人以上又は総資産10億円以上・年間取引額20億円以上)中会社(従業員1,000未満・総資産4,000万円以上・年間取引額6,000万~20億円未満)小会社((従業員1,000未満・総資産4,000万円未満・年間取引額6,000万未満)によって異なります。
小会社は、原則として、純資産価額方式によって評価します。純資産価額方式は、会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法です。
また、同族株主以外の株主等が取得した株式については、その株式の発行会社の規模にかかわらず原則的評価方式に代えて特例的な評価方式の配当還元方式で評価します。配当還元方式は、その株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を、一定の利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価する方法です。
下記で求めた評価額の内、低い方の価額が税務上の評価額となります。
普通株式の他、優先株がある場合はその種類によって評価が異なります。国税庁が種類株式の評価についてまとめていますので今回の説明では割愛します。
純資産評価方式
純資産価額方式は、発行会社が課税時期に清算した場合に株主に分配される正味財産の価値をもって株式の評価額と考える評価方法です。具体的には次の算式のとおり総資産から負債及び資産の含み益に対する法人税額等相当額を差し引いて評価会社の株式価額を求めます。
1株当たりの純資産価額 =(総資産 ー 負債 ー 法人税相当額 *)÷ 発行済株式数
* 法人税相当額 = (相続税評価額による純資産 ー 帳簿上の純資産)× 42%
上記算定にあたっては「相続税評価額」による資産・負債を用いますが、土地・建物・有価証券・繰延資産等を有していない会社は、相続税評価額と帳簿価格が同一とみなし、法人税相当額をゼロとして試算していただければと思います。(実際の評価の際は専門家に相談して下さい。)
配当還元方式
配当還元方式とは、過去2年間の配当金額を10%の利率で還元して、元本である株式の価額を求めようとする方式です。具体的には次の算式のとおりです。
なお資本金等は資本金の他資本準備金を含み自己株式を除きます。また課税時期に増資等があった場合も直前期末の残高を使用します。
1株当たりの配当還元価格 =(年間配当金額 * ÷ 10%) ×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)
* 年間配当金額 =(直前期末以前2年間の配当金額 ÷ 2)÷ 1株当たりの資本金を50円とした場合の発行済株式数
年間配当金額が2円50銭未満の場合又は無配の場合は2円50銭とします。
毎年配当している未上場会社はそうないと思いますので「無配当」前提にしますと下記算式で求められます。
1株当たりの配当還元価格 = 資本金等の額 ÷ 発行済株式数 × 50%
税務上の評価額より低い価格で取引した場合
条件:税務上の評価額 50,000円
売買価額 30,000円
取得価額 10,000円
売買株式数 100株
取引形態(個人-個人、個人-法人、法人-個人、法人-法人)によっても課税関係が異なりますがここでは「個人-個人」を前提に説明します。
また、復興特別税は計算から除外しております。
売り手:売買価額と取得価額との差額(利益)に対して株式の譲渡所得(申告分離課税)が課せられます。
(30,000円 ー 10,000円)×100株 × 20%*(所得税15%・住民税5%)= 400,000円
買い手:税務上の評価額と売買価額との差額(みなし利益)に対してみなし譲渡があったとみなされ贈与税(超過累進税率)が課せられます。
((50,000円 ー 30,000円)×100株)ー 1,100,000円(基礎控除))× 贈与税率(この場合は10%)= 90,000円
税務上の評価額より高い価格で取引した場合
条件:税務上の評価額 30,000円
売買価額 50,000円
取得価額 10,000円
売買株式数 100株
個人間取引
売り手:売買価額と取得価額との差額(利益)に対して株式の譲渡所得(申告分離課税)が課せられ、税務上の評価額と売買価額との差額(みなし利益)について贈与税が課せられます。
(30,000円 ー 10,000円)×100株 × 20%*(所得税15%・住民税5%)= 400,000円
((50,000円 ー 30,000円)×100株)ー 1,100,000円(基礎控除))×
贈与税率(この場合は10%)= 90,000円
買い手:課税関係は生じません
税務上の評価額で取引した場合
税務上の評価額と売買価額が同じ場合は売り手に譲渡所得税が課せられるだけで売り手・買い手共に贈与税は生じません。売り手からみた適正な時価と買い手からみた適正な時価、当事者以外の既存株主からみた適正な時価はそれぞれ異なるかと思いますが、税務上の評価額及び課税関係も含め取引価額を決定する必要があります。